メイドインジャパンの誇りー美しさと心地よさ。相反するものを求めて
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メイドインジャパンの誇りー美しさと心地よさ。相反するものを求めて

紳士のワードローブに欠かせないベーシックを追求するポール・スチュアートのQUINTESSENTIAL COLLECTION。そのスーツが完成するまでのストーリーを、生産を請け負う福島のファクトリー「サンヨー・インダストリー」永野孝志社長に聞きました。

Photo. Atsushi Ueno(Le 1er Juin) / Text. Daisuke Hata / Edit. Pomalo Inc.

「世界に負けないモノ作りをしている自負があります」と永野さん
ポール・スチュアートが、QUINTESSENTIAL COLLECTIONにおいて最も大切にしているのは「本質の追究」であり、「美しいフォルムと着心地のよさの両立」です。コレクションの印象を作り手の立場にいる永野さんに尋ねると、「いいモノを長く着てほしいという思いを強く感じます」との答えが返ってきました。

製品に高い水準が求められるのはもちろん、打ち込みのよいオーセンティックな生地を好んで用いる、というのがその理由。しっかりハリコシを備えた生地は美しく形作ることができるうえ、着こんだ際の型崩れもしにくいのだそうです。

粗裁ちした柄生地は、レーザー光を目印に慎重に柄位置を合わせ、複数枚をピンで固定したうえで本裁断する。
コンセプトに「美しいフォルムと着心地のよさの両立」があるのは前述の通りですが、永野さんは作り手として、その実現こそが「一番、難しい」と話します。“美しいフォルム”と“着心地”は、相反するもの同士。スマートなフォルムをやみくもに追求すれば窮屈な着心地になりますし、ならばとゆとりを設ければ今度はシワが寄ったり、フォルムの崩れにつながってしまうんですね。だから、ゆとりを設けるべきところにゆとりを設け、同時に醜いシワが出ないようあらゆる工程で立体的に身体に沿わせる……。上質なスーツには想像以上に繊細で、高度な仕事が求められるというわけです。

脇下から、生地をグイッと“肩の前方へ引き上げる”要領で「前肩」を作り、仕付け糸で固定する。
なかでも重要なのは「前肩」作りだと、永野さんは力を込めます。

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「日本人の肩は米国人に比べると、前寄りに付いています。だからアームホールも前寄りに付けなければいけません。それに前肩が上手く作れれば首周りのフィットも向上しますし、背中も美しいカーブを描いてフィットするようになる。すべてに連動する、重要な工程が前肩作りなんです」。 しかし、肩周りに求められる要求はもっと複雑。たとえば人間の肩には前に骨が出っ張っている箇所があるので、着心地を追求するには当然、そこに当たらないようカタチを形成しなくてはなりません。 こうした複雑な立体と立体の連なりを、ダーツ取りや、アイロンによるクセ取り(生地を曲げる作業)、縫製といった様々な工程で、平面である生地と、保形する芯地とに覚えこませていく……それこそがスーツメイキングの本質といっても過言ではないでしょう。

表地と芯地を仮留めする「仕付け縫い」には、それ以上の意味がある。 山状に縫っている箇所があるが、ここも後々、バストの立体感となって活きるのだ。

手間をかけて行う「仕付け」縫いが、完成を左右する

さて、「生地と芯地」を美しい立体に形作るためには、大前提として両者が自然に寄り添った状態である必要があります(芯地に対して生地が浮いていたり、重なるべき位置がズレてしまえば美しいフォルムは臨めません)。そこで重要となるのが、芯据え時の「仕付け」縫い工程。その後の工程で両者がズレてしまうことを防ぐべく、しかるべき位置に仮留めを行うのです。道を誤らないよう律するという意味では「仕付け」は「躾」であるともいえるでしょう。
なお、仕付け縫いは白糸でなされ、本縫いが済んだ暁にはすべて取り去られてしまう運命にあります。仕付け縫いで開いた針穴もすべて、丹念なアイロンプレスによって塞がなければならない。永野さんは言います。

完成後に、もし湿気を含んで生地が伸びたら、スーツは醜く型崩れしてしまう。 だから芯据えは、生地と芯地を“加湿”し、事前に伸ばした状態で行う。
「最近は、仕付けをやらない工場もあるんです。均一になりづらいし、パッと見ただけでは掛けた手間もわかりませんからね。でも、着心地や雰囲気に必ず反映されますから、非効率であろうと我々は徹底してやる」。また「芯据えは生地の目を読む能力も求められる難しい工程。仕上がりを想い浮かべながら、生地をタテにヨコに引っ張り、芯地と縫い合わせなければなりません。バストの膨らみを計算して、あえて山を作るように縫う箇所もある。ベテラン職人にしか任せられない、最も重要な工程のひとつです」と永野さん。 
男性を男性らしく見せるバストの流麗なフォルムは、QUINTESSENTIAL COLLECTIONに限らず、ポール・スチュアートのスーツの真骨頂でもあります。それをカタチにするうえでも、“仕付け”はなくてはならない工程というわけです。

ボディ専用のアイロンプレス機を前に、職人とコミュニケーションをとりながら作業をともにする永野さん。

“いいものを作っていれば、必ず成功する”という信念

写真はスーツ作りの終盤にある、ボディのアイロンプレス工程。このセクションには各部位ごとに専用のプレス機があり、表面を美しく整えながらトドメのようにスーツへ立体を覚えこませます。その後、ハンドアイロンで仕上げをし、ボタンを付けたら最終検査の工程へ。検査で修正点が出ればそこを直し、さらに検査、そこでまた不備があればまた修正し……を繰り返して、すべてをクリアしたものだけが晴れて出荷されます。永野さん曰く「一発で通ることはまずない」とのこと。検査を担当する何人もの職人の厳しい目が、品質を担保するのです。

ライニングも丹念にプレス。あらゆる細部への気配りに、メイド イン ジャパンの誇りが感じられる。
各工程を取材中、ときに笑いながら幾度となく職人とコミュニケーションをとっていた永野さん。経営を司る代表取締役社長に就任したのは1年前とのことですが、じつは5年間ここで工場長を務めていたこともあり、一通りの工程は身に染みている。職人との厚い信頼関係が、こちらにも伝わってきました。

現場が大好きだという永野さん。なお、技術者出身の社長は工場初とのこと。
「根が技術者なので、どうしても現場へ行っちゃう。みんなと一緒にモノ作りしているのが好きなんですね。工場にとっては納期や生産性も大切なのですが“いいものを作っていれば必ず成功する”というのが私の信念。とにかくこだわって、追求する。進歩する。それを楽しむ。ずっとそうしていきたいです」。

型紙に忠実であるばかりでなく、もう一歩先の美しさ、着心地のよさを求めて日々腕をふるい、工夫を凝らす。そんな職人たちの仕事が、今日もポール・スチュアートのスーツに命を吹き込みます。

INFORMATION

サンヨー・インダストリー
ポール・スチュアートをはじめ、高品質を追求するブランドが信頼を寄せる福島県福島市御山のスーツファクトリー。工場の設立は1976年。現在は約140名の従業員がスーツ作りに従事している。

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