心動く、ディスプレイを。VMDの静かなる情熱
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心動く、ディスプレイを。VMDの静かなる情熱

店舗のウィンドウディスプレイや陳列を統括する、VMD=ヴィジュアルマーチャンダイザーという役割。何気ない店頭のコーナーにも、VMDがさまざまな創意工夫を込めています。ポール・スチュアートのディスプレイに掛ける思いを、岡崎能也メンズVMDが語ります。

Photo. Atsushi Ueno(Le 1er Juin) / Text. Daisuke Hata / Edit. Pomalo Inc.

ポール・スチュアート約50店舗のヴィジュアルを統括する、岡崎能也メンズVMD。
美術学校でグラフィックデザインを学んだ後、アパレルの門を叩いた。2014年より現職。

洋服の“魅力”を、視覚化して伝える

 VMD=ヴィジュアルマーチャンダイザーと聞いて、その仕事内容がパッと思い浮かぶ方は珍しいかもしれません。それだけ専門性の高い職人的な分野といえますが、一言でいえば、ブランドの世界観や商品の“見せ方”に責任を持ち統括するのがVMDの仕事。たとえどんなにステキな服を作ってもお客様が目に留めてくださらなければ意味がありませんから、服やブランドの魅力を視覚化してお客様に届けるVMDの仕事は、ポール・スチュアートに限らず、ファッションブランドには必要不可欠なのです。

表参道沿いにあるポール・スチュアート 青山店。石垣をくり抜き、はめ込んだかのようなウィンドウは、ショップの名物でもある。撮影時のディスプレイテーマは“ニット”。

 上の写真は、ポール・スチュアート 青山店名物の石垣(大正時代に土留めとして築かれた石垣の一部)に組み込まれたウィンドウディスプレイ。冬の本格到来を前にして、撮影時はニットをフィーチャーしたものになっていました(2017年10月時点)。メンズ&ウィメンズのニット商品とともにあしらわれているのは、モコモコのフェルトや、円形の羊毛。ガラス面に貼られた羊のカッティングシートも可愛らしいアクセントになっています。

ニットの形に切ったパネルにフェルトをたっぷり貼り付け、モコモコに。温かみを手作りで表現。

ニットの“温かさ”をいかに表現するか?

今回のプレゼンテーションの意図について、岡崎VMDは次のように語ります。

「ディスプレイはいつもメンズ、レディースのVMD2人と、販促担当の2人、計4人でアイデアを出しながら組んでいるのですが、今回は我々がディスプレイのシーズンテーマに掲げた“立体”を意識しつつ、ニットの“温かさ”をいかに表現するか?ということを考えました。ニットの形のパネルにフェルトをノリで貼りつけたり、本物の羊毛をアクセントにあしらったり。背景のロールスクリーンの端をクルッと丸めたままにしているのもポイントです。こうした“手作り感”が、ニットの温かいイメージにも繋がるかなと。ディスプレイを見た方に、ほっこりした気持ちになってもらえたら幸せですね」。

羊毛(原毛)もあしらいに使用。円形のパネルに貼り付け、こちらもモコモコに。

道行く人の反応が、何よりも嬉しい

 青山店のウィンドウディスプレイの変更は、年12回。「道行く人々から反応が得られたときが一番嬉しい」と岡崎VMDはいいます。

「表参道沿いという立地もあって、ディスプレイを作り込んでいる最中にも、多くの方が足を止めて見てくださったり、ときには写真を撮ってくださったりするんです。今回は“もうニットの季節なんだね〜”というつぶやきが聞こえてきたり。ネクタイを主役に展示していたときは、ウィンドウディスプレイを見て“あの柄のタイを”と購入してくださったお客様もいらっしゃいました。やっぱり直接反応をいただけると励みになりますよね。それだけ責任も感じます」。

膝の微妙な角度を修正する岡崎VMD。常に意識しているのは“本物の人間の動き”だ。

マネキンのポーズひとつとっても流儀がある

 ウィンドウディスプレイだけでなく、商品陳列やトルソーの見せ方に目を配るのも、VMDの仕事。写真のようにマネキンに洋服を着せつける展示はN.Y.本店でも多用される定番手法ですが、マネキンのポーズひとつとっても流儀があると岡崎VMD。

「たとえば足が内側に向いていたり、胸の張り具合が足りないと、マネキンは逞しいイメージになりません。ポーズに違和感があると洋服の魅力まで損なってしまいますから、常に“いかに本物の人間へ近づけるか?”を意識していますね。関節のちょっとした角度にもこだわって、いじり倒しています(笑)。ちなみに(写真のマネキンが)前傾姿勢なのは、“今にも歩き出しそうな”印象を狙ってのことです」。

何気なく置かれた小物も、実は重要なピース

下の写真は、青山店の一角に設けられていた“STUART'S TRAVELER”の特設ディスプレイ。旅に特化した“STUART'S TRAVELER”シリーズの内容は前回、本企画の野田 仁デザイナーのインタビューにてご紹介しましたが、撮影時はこの展示が様々なショップを順々に巡っていく“キャラバン”の最中でした。

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右のマネキンがソファに深く座り、くつろいだポーズをとっているのは、コレクションの魅力である快適さやシワになりにくさといった機能性を表現するため。ちなみに、中央に飾った飛行機のオブジェや洋書などの小物探しもVMDの仕事です。 「ソファをはじめ、時計や洋書などの小物もホテルの一室を想起させる大切なツールです。飛行機のオブジェは、海外出張をイメージしたものですね。展示に使えそうなものはないか?と常に周囲を見渡してしまうのは、VMDのさが。問屋街や雑貨店にもよく足を運びます」。

“STUART'S TRAVELER”コレクションを紹介する特設ディスプレイ。(2017年10月時点)
海外出張やホテルでくつろぐイメージを視覚化している。

ガラス面には羊のカッティングシートが貼られていた、青山店のウィンドウディスプレイ。
色が黒なのは、あくまで主役であるニットの存在感を際立たせるため。

伝わらなければ、格好よくても意味がない

「店舗スタッフ時代も積極的に売場のディスプレイを担当していました。見せ方を色々と考えるのが好きなんです」という岡崎VMD。ウィンドウディスプレイを考えるときは、ポール・スチュアートのN.Y.本店を参考にすることも多いといいます。

「色合わせって、とても難しくて。青の中にも色々な青が、赤の中にも色々な赤があるので、同系色で合わせたからまとまるか?といえばそうじゃないし、意外とこの色との相性がいいんだということもあります。N.Y.本店のウィンドウディスプレイは色彩感覚が独特で、いい意味での驚きや楽しさがあるんですよ」。

 ただし、驚きや見栄えを意識するあまり「自己満足になってはいけない」と岡崎VMDは戒めも口にします。

「ウィンドウディスプレイやVP(ビジュアルプレゼンテーション)だけでなく、棚上も含めた全ての商品陳列においては、シンメトリー、タイト、トライアングル、リピテーションといったVMD4原則を基本に構成します。ただしそれにとらわれ過ぎていると、売場全体に面白みがなくなってしまいますので、一つのポイントがアシンメトリーになっていたとしても、売場全体を遠目に見たときにシンメトリーになっているように仕上げることが心がけています。また、商品陳列もそうなのですが、ディスプレイは“これを着たらどんな印象になるか?”、“これとこれを合わせたらステキだな”というのをパッとイメージしていただくのが第一。自分がこうしたい、ああしたいという主張をしても、お客様に伝わらなければ何の意味もありません。どうすればわかりやすく洋服の魅力が伝わるか?を常に意識して、これからも心に響くプレゼンテーションをしていきたいですね」。

ポール・スチュアート 青山店
東京都渋谷区神宮前5-7-20 神宮前太田ビル
電話番号 03-3406-8121
営業時間 11:00〜20:00(不定休)

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