微差にこだわるほど、愉しい。革小物の本質は、見えないところにある
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微差にこだわるほど、愉しい。革小物の本質は、見えないところにある

いつも身近にある財布などの革小物は、見せることを意識する以上に、自分が愉しみたいもの。永きに渡り愛したくなる良質な革小物には、どんなこだわりが秘められているのか。ポール・スチュアートの革小物を生産するプレリーシミズの営業企画部長 田中康弘さんにうかがいます。

Photo. Atsushi Ueno(Le 1er Juin) / Text. Daisuke Hata / Edit. Pomalo Inc.

北海道および東北産の肌目の絞まった仔牛の原皮のみを用い、埼玉のタンナーでなめした最高級の国産レザーをオモテに使用。日本の熟練職人が縫製したプレミアムなシリーズ。左上から時計回りに、長財布、ファスナー財布、2つ折り財布、ファスナー小銭入。


原皮の段階から美しさを追求する


緩やかに変化するトレンドはあるものの、機能としてはほとんど完成されている財布などの革小物。オンスタイルに携帯することを考えればデザインも自ずと控えめとなり、どれもこれも同じようなものに見えてしまうかもしれません。しかし微差こそ大差。パッと見ただけではわからないようなところに作り手のこだわりが宿っているものだと、ポール・スチュアートの革小物を生産するプレリーシミズの田中さんは話します。たとえば、レザーの風合い。

「柔らかなタッチのこちら(写真上)の革小物には、オモテに北海道や東北産の仔牛の原皮を埼玉県のタンナーでなめした、キップレザーを使用しています。国内で原皮を調達し、国内でなめすことで、原皮の状態に目を配りながら安定的に良質なレザーを調達することができるんです。原皮の産地にまでこだわっているのは、寒いところで育った牛のほうが肌目が締まっているから。世界的にも、原皮の名産地はカナダや北米、フランス、スイスなど寒い地域に集中しています。
また、細かなシボのエンボス(型押し)を施しているのも特徴。これにより明暗が生まれ、豊かな表情が生まれるんですね。キズが目立ちにくいのも魅力です」。

原皮の調達から仕上げの美しさまで、素材が完成するまでのすべてにこだわった先に、この端正で上質な風合いは生まれるというわけです。

中面には、ほのかな染めムラに味がある伊製のベジタブルタンニンレザーを使用。端正なシボが並ぶオモテとのコントラストに、洒脱が薫る。


“経年変化”も革小物の醍醐味


エンボスレザーの革小物の特徴として、目立った経年変化をせずに綺麗な状態をキープできるというものがあります。オンスタイルに持つことや永きに渡る愛用を考えると、これは大きなメリットなのですが、一方で“革を育てる”愉しさでは、フラットなレザーに軍配が上がります。そこでこちらの革小物シリーズは「経年変化が愉しめる革を“内装”に使っています」と田中さん。

「国産のエンボスレザーを用いた端正な表情のオモテ面に対して、内装には染めムラにアンティーク感のある伊製のベジタブルタンニンレザーを使用しています。カード段の1つ1つを見ても微妙に表情が異なっていて、それが表情に奥行きを与えている。使い込むほどに、さらに深い味になるでしょう」。

購入したときが100%の魅力ではなく、その先がある————これもまた革小物がモノ好きの心を捉えて止まない由縁といえます。

革帯で補強する「のせべり」によって頑丈に仕上げられたカード段の端。手間が要されるディテールだ。


丈夫さを求めて、一手間を惜しまない

優れた革小物は、作りにも職人の見えないこだわりが秘められていると田中さんは力を込めます。

「お話してきた国産のエンボスレザーを用いたシリーズは、縫製も日本の職人が行っています。細かい仕事の美しさは、やはり日本の職人が世界一。こちらの革小物には、オモテ面に程よくカジュアルな趣があるベージュのカラーステッチを施していますが、これも美しい縫製があってこそ成り立つディテールですよね。また、このシリーズの財布はカード段のヘリに、短冊状の革帯を当てて縫っています。「のせべり」と呼ばれる手法ですが、一手間掛けることで、より頑丈になる。永く愛用していただきたいからこそ、誰も気づかないような箇所にも気を配っているのです」。

ポール・スチュアートのN.Y.本店にあるクレストをアイコンとして刻印。シボの凹凸に沈まないよう、特殊なフィルムを乗せてから刻印を施す。


職人技によって磨かれるエレガンス


カード段をめくって覗きこまなければわからない、本当に“見えない“箇所にも、こだわりが冴え渡ります。

「それぞれのカード段は直線でなく、沈み込むような形状になっています。ヘリの部分は革を折り返していますが、ラウンドしているので普通に折るとシワが寄ってしまう。なので職人は、折り返して隠れる箇所に細かな切れ込みを入れ、シワが寄らないよう手間を掛けます。この長財布の場合、カード室が8個あるので、16箇所にこの作業をする。驚くほどの手間です。
では何のためにするかといえば、そのほうが“エレガント”に見えるから。完全にこだわりの世界ですが、ポール・スチュアートというブランドの世界観が滲むディテールだと思います」。

ちなみにオモテ面に刻印されたクレストは、ポール・スチュアートN.Y.本店の窓上にあるクレストと同じもの。エンボスの凹凸に隠れないよう、透明のフィルムを乗せてから刻印を施しています。こんな細部にも、美しく仕上げるための一手間があるのです。

表情豊かなプルアップレザーを用い、薄身のコンパクトなフォルムに仕上げた新作。左列はともに2つ折り財布、右列はともにファスナーの長財布。


時代の機微を捉えた作り

さて、ポール・スチュアートには、海外生産の革小物シリーズもあります。写真は、オイルを染みこませナチュラルな風合いに仕上げたプルアップレザーを用いた新作。使い込むほどに艶を増す経年変化とともに、もう1つ、時代に即した使いやすい設計にも注目していただきたいと田中さんは語ります。

「電子マネーの普及から現金は最小限持てばよく、カードも最低限の枚数だけ入ればいいという人が増えてきました。そんな時代背景から、財布は携帯しやすい薄身のタイプが主流になってきています。こちらの新シリーズも、たとえば2つ折り財布はコイン室のマチを排するなどして、薄身、かつコンパクトな設計を追求しているのが特徴。昨今の軽やかなスーツスタイルとの相性も抜群です」。

プレリーシミズの営業企画部部長、田中康弘さんは1987年入社のベテラン。革への造詣も深く、素材の選定には並々ならぬこだわりをもつ。本国ポール・スチュアートからの信頼も厚い。


革は見せる、よりも愉しむ、が大切

さまざまなお話をうかがいましたが、革小物の一番の醍醐味は何であるか。田中さんはその答えを次のように語ります。

「たとえば、財布は本来お金を持ち歩くためにあるもので、他人に見せるためのものではありません。だからもっとパーソナルに、その人その人のこだわりを愉しむべきだと思うんです。見た目からはわからない手馴染みのよさだったり、ディテールだったり。ちょっとした違いにこだわるのが、こんなに愉しいものはない。なかでも一番のこだわりどころはやはり、レザーの風合いでしょう。

じつはポール・スチュアートの革小物を作る際に私たちが意識しているのは、ブランドのファンの方だけでなく、革小物のファンの方に手にとっていただきたいということなんです。清潔感はもちろん大切ですが、使うほどに変化するレザーの表情というものを、もっとお客様に愉しんでいただきたいと思っています。結果、永きに渡って愛用していただけたら、こんなに嬉しいことはありません」。

INFORMATION

プレリーシミズ

ベルトや革小物、袋物の製造・販売を手掛ける、1957年創業のメーカー。多彩なオリジナルブランドを展開するとともに、世界の有名ブランドのライセンス生産を手掛けている。

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