和食の新たな可能性へのあくなき挑戦と探求心─山下春幸(ウォーターマーク代表兼エグゼクティブシェフ)前編
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和食の新たな可能性へのあくなき挑戦と探求心─山下春幸(ウォーターマーク代表兼エグゼクティブシェフ)前編

時代が注目するキーパーソンにポール・スチュアートが迫る「STYLE SESSION」。第9回目のゲストは、HAL YAMASHITA 東京のエグゼクティブオーナーシェフでウォーターマーク代表の、山下春幸さん。料理技法など、伝統的な日本のスタイルに独自の視点を用い、従来になかった斬新な組み合わせを取り入れた『新和食』を提案している。そんな国内外から高い評価を獲得する、日本が世界に誇る和食界の革命家・山下春幸さんがポール・スチュアートのスーツを着用。スーツへのこだわりや和食の未来に至るまで幅広く伺いました。

Photo. Tatsuya Yamanaka(Q+A) / Text. Kei Osawa / Edit. Pomalo Inc.

希有な料理人としての素養が見え隠れしていた幼少時代

― 山下さんは、いつごろからシェフを志していたのですか?

もう物心がついたときからですね。これは両親から聞いたのですが、小さな男の子だと怪獣やウルトラマン、ミニカーなどで遊ぶのが一般的だと思うのですが、僕の場合は"おままごとセット"でしたから(笑)。しかもおもしろいのが、その"おままごとセット"を使ってお母さんごっこをしていたわけではなく、葉っぱをお金にしてお店屋さんごっこをしていたらしくて、定食屋さんみたいな。テーブルに背が届かないくらいの幼少期から塩と胡椒を混ぜて遊ぶような子供だったので、本当に料理が好きだったのだと思います。

― 幼いころから料理が好きであれば、高校卒業後に料理学校に行くのが一般的だと思いますが、なぜ大学進学を?

料理学校だと、世間との感覚的な違いや温度差みたいなものが大きくて、当時は何となくそこじゃないと思ったんです。ただ大学の場合は、大人になるために準備するための時間と環境があったわけです。例えばサークルやクラブ活動があって、そこに所属することで何となく社会の仕組みみたいなものを理解することができたり、あと行こうと思えば国内だろうが海外だろうがどこへでも行けるじゃないですか。料理好きだけではない、色んな考えをもった人たちの中に、自分の身を投じることで色々な刺激を受けますから。その当時の経験が今の私の原点の一つになっていることは間違いないです。

― 料理どっぷりの環境にならず、大学時代に様々な体験を経たことが大事だったわけですね。

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そうですね。もしその時間がなかったら、色々なところから料理について影響を受け過ぎることになって、自分というものを見つけることができなかったかもしれないです。その経験の中には、本当にたくさんの失敗がありましたから。だからそういう意味では、社会に出たときに色々なトラブルが起きても、こうすれば大丈夫という対処法は、経験上なんとなくわかっていたと思います。

注目を浴びる新和食、実は究極の家庭料理だった

― そして大学卒業後、社会に出てから海外修行に出られるわけですが、これもかなり大胆な行動ですよね。何も無い状態で渡米したとのことですが、怖くはなかったのですか?

何も無い状態で行くからこそいいのです。失うものが何もないから。25歳を過ぎてほかの人たちよりも料理人としてかなり遅れをとっている。でも料理がやりたい、料理人になりたい。でもツテもコネもない。お金もないし、英語も喋れない。そういう状態でしたからもう行くしかなかった。海外へ普通に料理の修行に行こうと思えば、一般的には日本の料理学校の先生の紹介がないと取り合ってくれないわけです。僕はそういうものが一切ないから、とりあえず直接お店に行って直談判をしてみるわけですが、もちろん全く相手にされず、つまみ出されたりもしました。

西洋料理を習いたかったのですが、西洋料理のお店に行ったら「お前は日本人だろ」と。それなら、寿司はできるのか、天ぷらはできるのかと聞かれるわけですが、実家が料理屋だったからできたんですよね。そんなことから日本料理屋を次々と紹介されて、最終的にL.Aのリトル・トーキョーにたどり着きました。当時僕は、魚を捌くことができたことが武器になりました。どのお店にも最初は皿洗いから入るのですが、いつしかどこかのタイミングで「お前できるか(魚を捌けるか)?」って聞かれて「できる」と答えて実際にやると技術が高いから、シェフの専属みたいになって(笑)。そのうちシェフが「もうお前はこの店で学ぶことはないから」って、次のお店へ紹介してもらってランクアップしてっていう。

― 日本人であることを自覚されて、その後の料理人としての人生に変化をもたらしましたか?

その当時はあまりわからなかったのですが、ある程度年齢を重ねたときに自分は日本人だから、どんな料理のトレンドが入ってきても、自分のベースである「和」の部分は変わらないんですよね。例えばある人が見たら、僕の料理の写真も10年くらい前から並べると、ものすごく変わったように見えるかもしれませんが、僕から見ると根底は同じなのです。

― そしてそれは、自身の代名詞である「新和食」の提案にもつながっていると。

完全にそうですね。日本に帰ってきて西洋料理をやりたかったのですが、向こうでは基本的に和食の修行をして帰ってきたわけです。そして父親のお店を手伝っていたらある日、バルサミコ酢の代わりに米酢しかないとか、フォンドボーの代わりにカツオ出汁しかないとか、そういうことが起きるわけですよね。そんな中で、和食をやりたいけど、そのまま出しては料理としてはダメというときに、新しい和食を作ろうと思ったのです。

禅 ZENをテーマにした新和食レストラン「HAL YAMASHITA 東京」(東京ミッドタウン内)

そもそも和食とは何かとなった場合、一般的には焼き魚にお味噌汁、白飯ですが、和食というのはそれだけではありません。健康で美味しくて楽しみがあって、そのうえ季節感のある料理。僕は固定概念にとらわれない、自分なりに海外の文化を取り入れた新たな料理を作ろうと思ってできたのが新和食です。私はこれを『究極の家庭料理』と呼んでいます。
>>中編に続く(11月13日(月)公開予定)


(山下 春幸様着用アイテム)
JACKET ¥69,000(+TAX)
SHIRT ¥19,000(+TAX)
TROUSERS ¥30,000(+TAX)

問い合わせ先/ポール・スチュアート 青山店 Tel.03-3406-8121

PEOPLE PROFILE

山下 春幸 Hal Yamashita
料理人/オーナー/シェフ

1969年兵庫県生まれ。大阪藝術大学藝術学部卒業。海外で料理修業を積んだ後、 独自の視点・捕らわれない料理技法を用い、伝統的な日本のスタイルに今までにない斬新な組み合わせを取り入れた「新和食」を提案し、国内外から注目を集めている。また自身のレストランのほか、障害者支援ボランティア活動、政府関係のアドバイザー、全国各地での講演、また現在世界に150人ほどしかいないマスターシェフの一人として、その活動を世界に広めてパワフルな活動を行っている。

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